片山貴夫のブログ

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岩波書店に対して就業規則の改悪をやめるよう求める


「岩波書店の著者」等を「誹謗」したら解雇されてしまう事が、就業規則に明記されようとしています。右派ではなく「リベラル」として世間に思われている岩波書店が他に先駆けて秘密保護法と同じような就業規則改悪を導入する[行為が社会的に受け入れられ、それが先例となって―言論・報道業界に広がったときの]ことの社会的影響力を考えたら、とても恐ろしいことです。岩波書店は、「言論の自由」にとっての自殺行為を為すべきではありません。

【転載】

岩波書店の就業規則改定案について
首都圏労働組合、2015/3/15
http://shutoken2007.blog88.fc2.com/blog-entry-49.html

岩波書店が現在、就業規則の改定を行なおうとしている。改定案は、「諭旨解雇または懲戒解雇」のための規定の新設が主なものだが、それが酷いものだったので、ここに紹介・批判し、就業規則の改悪をやめるよう求めることとする。

改定案の「諭旨解雇または懲戒解雇」の条文(第41条の4)の特色は、その対象の一つとして、「会社および会社の職員または著者および関係取引先を誹謗もしくは中傷し、または虚偽の風説を流布もしくは宣伝し、会社業務に重大な支障を与えたとき」を挙げていることである。

そもそも「著者」とは何なのか。「岩波書店の著者」といえば、2012年2月に広く話題となった岩波書店の縁故採用で、応募には「岩波書店の著者」の紹介状が必要とされたことが思い出されるが、この時に岩波書店は、岩波書店の雑誌等の刊行物に一度でも寄稿していれば「岩波書店の著者」だとした。しかし、それならば、「岩波書店の著者」は極めて多数に上るから、社員が個人の資格でまともに何かを発言することなどほとんど不可能になろう。

また、岩波書店の「関係取引先」は、朝日新聞や毎日新聞、読売新聞、日本経済新聞、多数の地方紙、諸雑誌など、これまた極めて多数に上るから、これも、何も発言するなと言うに等しい。

就業規則改定案は、個人の言論の自由を保障した憲法(注)への明白な違反である。会社への誹謗中傷を禁止することに関しても、言論機関の場合、それが一般的かは疑わしい。例えば、毎日新聞の就業規則の「懲戒」の対象としては、パワハラ、セクハラなど一般的なものが規定されているが、会社への誹謗中傷は対象となっておらず、新聞社らしいものとしては「故意に編集権侵害の行為のあったとき」が対象とされているのみだという。

ある弁護士は、この規定について、「会社側は、誹謗中傷行為一般を解雇事由としているのではなく、<会社業務に重大な支障>を与えた場合のみを対象としているから、憲法にも反しない、あるいは合理性があると主張するのだと思う。実際には、このような規則をつくったからといって、社員の言論活動を理由に懲戒解雇とするのはかなりハードルが高いのではないか」と述べている。しかし、もしそうならば、<会社業務に重大な支障>などという極めてあいまいな前提のもと、懲戒解雇のリスクを冒してまで批判する人間はほとんどいないであろうから、この規定の主な目的は<言論封殺>である、ということになる。

懲戒解雇について、徳島県労働委員会のホームページでは、「懲戒解雇は、労働者にとって極刑であり、通常は退職金の全部又は一部が支給されないばかりか、再就職の重大な障害となります。」と書かれている。

また、ある新聞社の記者は、この規定が言論機関にとって「ありえない」理由の一つとして、以下のように述べていた。「記者が書いた記事が、裁判で<誹謗もしくは中傷>と判断された場合、その記者は自動的に懲戒解雇の対象ということになってしまう。それでは新聞や週刊誌がまわるはずがない」と。また、「言論機関としては自殺行為としかいいようがない」とも述べていた。

なお、憲法違反とは、単に、「言論・表現の自由」の侵害だけではない。数多くの政治家、例えば、石破茂・岡田克也・菅直人・小沢一郎・鈴木宗男・小泉純一郎・田中真紀子・辻本清美といった面々も「岩波書店の著者」であるから、政治的活動の自由の侵害でもある。

また、「会社の職員」も対象となっている。私は、佐藤優氏の積極的起用や、佐藤氏の韓国の要人たちへの紹介などを一貫して行なってきた岡本厚社長(雑誌『世界』前編集長)を批判してきたし、また、岡本社長が「岩波書店代表取締役社長」の名義で、保坂展人・世田谷区長の政治資金パーティーの呼びかけ人に名を連ねていることや、役員の立場にいながら都知事選で宇都宮健児候補の選対を務めてきたことなども批判してきた。

また、縁故採用の件に関しては、応募者の熱意を見たかったからであって縁故採用ではない、などと説明する小松代和夫・総務部長(取締役)に対して、実際にはマスコミへの発覚前に、複数の特定の著者には推薦依頼状を会社から送っているのだから、説明は実態と著しく乖離しているのではないのか、と批判してきた。

これらの批判も、「会社の職員」への誹謗中傷、ということになりかねない。

さらに、改定案の第41条の7では、「会社は、他の職員の懲戒に該当する行為に対し、ほう助または教唆もしくは加担したことが明白な職員については、本人に準じて処分する。」などいった条文も盛り込んでいる。

そもそもどうやって「ほう助または教唆」など証明できるのか。加担とはどのレベルを指して言うのか。これも異様な条文で、労働組合活動への弾圧にも用いられうるものである。

この件に関して、元・共同通信記者で同志社大学大学院メディア学専攻博士課程教授(従業員地位確認等請求訴訟係属中)の浅野健一氏からコメントをいただいたので、以下に掲載する。


<表現の自由は民主主義社会にとって最も重要な基本的人権であるが、岩波書店は、会社の指定した機密情報を流したり、岩波書店の刊行物に論文を書いた著者を誹謗中傷したりした時は懲戒解雇するという就業規則を導入しようとしている。これは異常であり、あってはならないことだと思う。もちろん、共同通信社にも学校法人同志社にもこんな馬鹿げた規則はない。憲法違反の就業規則だ。

しかも、この就業規則改定案の「第24条の2」では、「会社は、次のいずれかに該当する職員に対し社内への入館を禁止し、または退館を命ずることができる。」と定めた上で、その対象の中に、「会社の風紀を乱し、または乱す恐れのある者」も挙げている。「恐れ」はいくらでも拡大解釈できる。また、「第41条の7」では「ほう助、教唆」も対象になっているが、その範囲や基準は明示されていない。

私は22年間、共同通信の記者を務めていたが、『「犯罪報道」の再犯 さらば共同通信社』(第三書館)で、当時の社長の不正経理が内部処理されたことを明らかにした。また、昭和天皇が死亡した1989年1月、共同通信は天皇の死を「崩御」と表現したが、それを行なった中心人物が後に関東学院大学教授になった元新聞労連副委員長の丸山重威氏だったことも書いた。岩波書店の改定就業規則ではこういう著述は許されないことになる。

『週刊金曜日』で私と共に「人権とメディア」を連載している山口正紀氏は読売新聞記者時代に、読売新聞のロス銃撃事件報道などを批判した。共同通信記者の中嶋啓明氏も共同通信や共同の加盟社の報道を批判の対象にしている。しかし、読売や共同が就業規則を持ち出して、処分をちらつかせたことは一度もない。

岩波書店の名誉というのは何だろうか。職員の言論の自由を縛り、企業機密を守ることにエネルギーを使ううちに、出版業の大切な原点が忘れられていくだろう。縁故採用をネットのHPに載せるような愚かな行為こそ、岩波書店の名誉を毀損しているのではないか。

リベラルなマスメディア企業の中で、「著者」や「関係取引先」や「職員」(社員)への誹謗中傷を懲戒解雇処分とするという規定を行っているメディアを知らない。

言論機関にとって重要なのは、社内言論の自由だ。社員みんなが情報を得て、自由で闊達な議論をたたかわすことが何より大切だ。意見の違いを述べ合うことだ。controversial(論争的)であることが大事なのだ。社長も、一社員も平等の権利を持って。

岩波書店にこのような就業規則が導入されれば、社員は萎縮し、お互いが疑心暗鬼になり、風通しの悪い職場になるだろう。相互監視の暗い職場になることは間違いない。

これが他のメディア企業に広がった場合、報道・出版界全体が活力を失うだろう。>


なお、岩波書店は、2014年6月に社員の賃金カットを行った。賃金カットを行なうのであれば、経営責任のある役員は、退職金はすでに得ている以上、役員退職慰労金の額を社員に公開してはどうかと当組合は会社に対して主張した。しかし、会社は、「役員退職慰労金は株主総会マターであって、労使で議論すべきものではないと考えています」などと回答している。こうした姿勢も問題である。

私たちは、ここに、岩波書店に対して就業規則の改悪をやめるよう求める。

[注]日本国憲法には、「第二十一条  集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。 /2  検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。」とある。
また、世界人権宣言(1948年12月、国連総会採択)には、「第十九条  すべて人は、意見及び表現の自由に対する権利を有する。この権利は、干渉を受けることなく自己の意見をもつ自由並びにあらゆる手段により、また、国境を越えると否とにかかわりなく、情報及び思想を求め、受け、及び伝える自由を含む。」(外務省仮訳文)とある。

(金光翔)
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